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最高裁判所第一小法廷 昭和36年(ウ)1320号 判決

上告人 兵庫県知事

訴訟代理人 山田二郎 外二名

被上告人 北林金

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人山田二郎、同松尾重彦の上告理由二の(二)について。当裁判所の判例によると、行政処分のかしが明白であるかどうかは、処分の外形上、客観的に、誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決すべきものであつて、行政庁が怠慢により調査すべき資料を見落したかどうかは、処分の外形上、客観的に明白なかしがあるかどうかの判定に直接関係を有するものでなく(昭和三四年(オ)一一八七号同三六年三月二八日第三小法廷判決民集一五巻三八一頁参照)、また、右に客観的に明白ということは、客観的ということが主観的に対応する概念であるから処分関係人の知、不知とは無関係に、特に権限ある国家機関の判断をまつまでもなく、何人の判断によつても、ほぼ同一の結論に到達し得る程度に明らかであることを指すものと解すべきである(昭和三六年(オ)八〇四号同三七年七月五日第一小法廷判決民集一六巻一四三七頁参照)。

ところで、原判決は、その挙示の証拠によつて、本件農地は被上告人(控訴人)の自作地であるといつて差し支えないと断定しているが、果して、本件買収処分のなされた当然において、本件農地が小作地でなかつたことが客観的にしかく明白であつたかどうかについては、必ずしも疑いなしとしない。むしろ原判決認定のような事実関係のもとでは他に何らかの事情が附け加えられたものが判示されない限り判示買収の誤謬がしかく明白なものとは判断できないものと解するを相当とする。しからば原判決には右の点について審理不尽、理由不備の瑕瑾あるものと云わざるをえない。従つて本論旨は結局理由あるに帰し、原判決は他の論旨について審究するまでもなく破棄を免れない。

よつて、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤朔郎 入江俊郎 下飯坂澗夫 長部謹吾)

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